【ラスカルの備忘録】ダロン・アセモグル 「技術と不平等」

ダロン・アセモグル「技術と不平等」
http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20081216/1229440307
ダロン・アセモグル「技術と不平等」──解題のようなもの
http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20081224/1230128070

技術と不平等

多くのOECD諸国では、過去数十年の間に、賃金の急激な上昇と所得格差の拡大を経験した。

例えば、米国では、the college premium─高校卒業者の賃金に対する大学卒業者の賃金の比─は、1979年から1995年の間に、25%以上上昇した。

内生的技術革新

20世紀を通じて技能偏向的であり、過去30年間によりそうであったかの説明の試みにわたしの関心を向けさせる。
その論拠に向けた最初の一歩は、技術とは、労働市場と賃金格差における単なる外からの力ではない、ということについての理解である。

むしろそれは、雇用量や賃金額と同じように、事業所と従業員が決定したことの結果である。言いかえれば、技術は「内生的」であるということである。

簡単にかつ極端的にいえば、技術における20世紀を通じた技能偏向の拡大と過去30年間におけるその加速は、利益機会の変化の結果であり、
利益機会の変化とは、言いかえれば、高技能労働者の過去100年間における定常的な増加と1970年代初めに端を発するその急速な増加の結果であると論じることができよう。

技術革新と不平等の拡大

近年、多くの先進諸国で不平等(格差)の拡大がみられる。

経済成長と不平等との関係については、これまで、グズネッツの逆U字仮説というものがよく知られていた。
主要産業が農業から工業へと進むにつれ、所得格差が相対的に大きい工業部門のウェイトが高まることかで、所得格差は拡大するが、
その後、低所得層の政治力が拡大し法律や制度の整備が進むことにより、所得格差は縮小する。
このため、不平等は、経済成長の初期の段階では拡大するものの、それがある程度進むと、今度は逆に縮小してくるというものである

ところが、近年では、逆U字曲線の動きが変化し、不平等は再び拡大するような傾向がみられるようになった。

アセモグルの研究は、技術革新を経済モデルの中に内生化し、経済主体相互の複雑な関係の中で、技術革新と不平等との関係に因果性が生まれることを指摘しようとするものである。

技能偏向的な技術革新は、収益性の変化が、経済主体のインセンティブに働きかけることよってもたらされる。
つまり、技術集約的な商品に対する需要の急速な拡大と、高技能労働者の供給の拡大が、企業行動を変化させることによって生じたとみているのである。